前回の記事では、GarminやCOROSのFITデータをAIチャットで分析する方法を紹介しました。
この記事ではその続きとして、AIチャットを「自分向け」にカスタマイズする方法と、使い込んで見えてきた「AIの限界」について書きます。
私はAIの専門家ではありませんが、だからこそ一般のランナー目線で試行錯誤してきた経験をそのままお届けします。
「正論だけど、他人事」——初期のAIチャットが物足りなかった理由
前回の記事で、GarminのFITファイルをAIチャットに送ると「今日の走りの意味」と「明日やること」が返ってくる話を書きました。
ただ、最初に使ったときは正直こう感じたのです。 「便利だけど、どこか他人事みたいだな」と。
返ってくる回答自体は正しいのです。
「ピッチを上げましょう」「Zone2を中心に走りましょう」。 間違ったことは何も言っていません。
でも、読んでいて「これは私に向けて言っているのか、それとも誰でもいい一般論なのか」という感覚が拭えませんでした。
私はプログラムが書けるわけでも、AIの仕組みを深く理解しているわけでもありません。
「これは何かに使えそうだ」という直感だけで、あれこれ触ってきた素人です。
そうやって弄り続けるうちに、ある重要なことに気づきました。
「AIチャットは、私のことを何も知らない状態で答えている」
目標タイムも、レースまでの期間も知らない。
夏場に心拍が上がりやすい私の体質も、使っているシューズも知らない。
つまり、AIは「平均的なランナー」に向けて答えるしかない状態だったのです。
これはAIチャットが悪いわけではなく、情報を与えていない私自身の問題でした。
「自分向け」にするには、まず自分のことを教える必要がある。
気づいてみれば単純な話ですが、AIに慣れていないうちはその発想自体がありませんでした。
ランニングウォッチもアプリも、基本は「何も設定しなくても最初から動く」ものが多いからです。
だからAIチャットも同じだと思い込んでいたのだと思います。
そこで、AIに「私の文脈」を学習させてみることにしました。
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わずか10分で激変!AIに「私の文脈」を教える魔法の機能
試行錯誤の中で見つけたのが、「プロジェクト指示(カスタム指示)」という機能です。

難しい言葉に聞こえますが、要するに「AIに自分のプロフィールをあらかじめ覚えてもらう仕組み」です。
自分の情報をテキストで一度登録しておけば、新しいチャットを始めるたびに毎回説明しなくても、常に自分向けの回答が返ってくるようになります。
最初は「こんなことで変わるのか?」と半信半疑でしたが、設定してみたら回答の質があっさり激変しました。
私が設定した情報は、主に以下の5つです。
| 設定項目 | 内容 |
|---|---|
| 目標レース | 東京マラソン2027 サブ3:09 |
| 目標レース日 | 2027年3月(残り約9ヶ月) |
| 使用デバイス | Garmin Forerunner 265・COROS PACE 4 |
| VO2max | 年齢から推定 |
| 体調の傾向 | 夏場に心拍が上がりやすい |
AIの専門知識はいりません。自分のことを箇条書きや文章で書くだけです。慣れれば10分もかかりません。
この設定を入れる前後で、AIの回答がどう変わったか比較してみます。
データは、ある日に室内トレッドミルで走った12kmのデータ(W-up 1km・本編① 5:00/km・本編② 4:50/km・Cool-down 1km)をどちらも同じように送りました。
設定前の回答

「機種はCOROS PACE 4。距離12.01km、時間1:02:53、平均心拍149、平均ケイデンス89でした。ラップごとのデータは以下の通りです……」
データは正確に整理されています。でも「で、私はここからどうすればいいのか」という肝心な答えが見えません。
ラップごとの数字を並べただけで、目標も状況も考慮されていない、ただの「データの転記」です。
設定後の回答

同じ5月26日のデータを、プロジェクト指示を設定した状態で送ったときの回答です。
「本編①(5:00/km・156bpm)から本編②(4:50/km・146bpm)に移る際、ペースが上がっているにもかかわらず心拍が10bpmほど下がるという逆相関が起きています。生理学的には心拍が上がる方が自然なため、一時的なセンサーの計測エラー(精度)に注意が必要です。
東京マラソン2027のサブ3:09(目標平均ペース4:29/km)に対して、今回の本編ペース(5:00〜4:50/km)は20〜30秒遅い設定です。 残り9ヶ月の提案として、まずは心拍データの信頼性確保(光学式から胸ストラップへの併用検討)、マラソンペースでの走行データの蓄積、そして夏場の心拍上昇傾向への対策を優先してください」
同じデータを送っているのに、返ってくる内容がまったく違います。
ペースと心拍の矛盾から「センサーの不具合」の可能性を指摘し、サブ3:09という目標に対して今の練習がどう位置づけられるかを分析し、残り9ヶ月で優先すべきアクションを具体的に示してくれました。
設定前と後でここまで変わるとは、正直思っていませんでした。
「これは使える」と確信した瞬間です。
プロジェクト指示は一度設定すれば毎回引き継がれるため、ツールを開くたびに入力し直す手間もありません。
使い込むほどに「自分のことをよく知る専属コーチ」に育っていく感覚があります。
走らない日も頼れる相棒に。データを送らない「自由質問」の意外な活用法
しばらく使い続けるうちに、さらに別の使い方を覚えました。
それは「今日は走っていないけれど、明日の練習をどうするか相談する」というアプローチです。
「なんだか疲れが残っている気がする。でもスケジュール的には明日がポイント練習の日だ。
思い切って休むべきか、ジョグに切り替えるか、予定通りやり切るべきか……」
こうした市民ランナー特有の迷いを気軽に相談できる環境は、実はなかなかありません。
ラン仲間に聞けば「休んだほうがいい」「いや、そこは追い込もう」と意見が割れますし、ネットで調べても出てくるのは一般的なトレーニング論ばかりです。
AIチャットは、FITファイルを送らなくても動きます。
「今日は走っていませんが、明日の練習についてアドバイスをください」と文章で打ち込むだけで、立派な相談相手になってくれます。
ここでもプロジェクト指示が活きてきます。
AIはすでに「サブ3:09を目指すランナー・夏場に弱い・レースまで残り9ヶ月」という私の文脈を理解しているので、返ってくるアドバイスはすべて私専用にチューニングされたものです。
実際にやってみて良かったやり取りをいくつか紹介します。
質問例①:「なぜ今日は遅かったのか」
「今日は全然ペースが上がらなかった……」と落ち込む日は誰にでもあります。
しかし、気温や前日の疲労、コースの起伏など、原因を自分一人で分析しようとすると要素が絡み合って整理しきれません。
そこで、5月26日のトレッドミルセッションについて、「このデータの走りはなぜ遅かったのでしょうか」とストレートに聞いてみました。

するとAIから返ってきたのは、「遅かった」という前提そのものを見直す、目からウロコの回答でした。
「今回の本編ペースは5:00〜4:50/kmで、サブ3:09の目標ペースである4:29/kmとは20〜30秒/kmの差があります。これはそもそもレースペースを出す設計のセッションではなく、ビルドアップ走やイージー〜ミドル走として組まれていた可能性が高いです」
さらに、以下のような悪条件や課題が複数積み重なっていたことを、ロジカルに整理してくれたのです。
「遅かった」のではなく、「そもそも速く走るための練習ではなかった」という客観的な言い換えを提示されたとき、不思議なほど気持ちが楽になりました。
自分を無駄に責めなくて済む根拠が、データから綺麗に導き出された感覚です。
質問例②:「夏場のペース設定はどうすればいいか」
「暑いから遅くなるのは仕方ない」と頭では分かっていても、ランニングアプリのメニューは気温を無視した設定ペースを提示し続けがちです。
そこで、「では夏場のペースはどう調整すればよいですか。普段はCOROSで作成したメニュー通りにトレーニングを行っています」と相談してみました。

返ってきたのは、COROSのメニューを活かしながら夏を乗り切るための、驚くほど具体的な調整方法でした。
さらに、ロング走やLSDは暑熱の蓄積負荷が大きいため特に注意が必要であることや、9月以降に気温が下がるタイミングで段階的にペースを戻していくロードマップまで、具体的な数字とともに返ってきました。
毎年夏場の練習方法に悩んでいましたが、こうして「具体的に何秒落とせばいいのか」が数字で可視化されたことは、自分にとって大きな変化でした。
質問例③:「レース2週間前の練習量はどう落とすか」
市民ランナーが最も頭を悩ませるテーパリング(調整期)。
「落としすぎると鈍る、落とさないと疲労が抜けない」という不安に駆られる時期です。
まだ先の話ですが、「大会本番が近づいたとき、練習量はどう落としていけばよいでしょうか」と、あらかじめ聞いてみました。

すると、サブ3:09を目指すランナー向けに「2〜3週間」という期間設計とともに、以下のような週別の練習量の目安がきれいな表で返ってきました。
さらに納得感があったのは、落とすのは「量(距離)」であり、「質(強度)」は維持するという具体的な考え方です。
距離は大きく削る一方で、マラソンペースの感覚を保つための短い刺激は最後まで残す。
ここを間違えると、「レース当日に脚が重く感じたり、逆に体がレースペースを忘れてしまったりする」という、よくある失敗パターンまで丁寧に教えてくれました。
「落としすぎると鈍るのではないか」という、あの特有の葛藤。
それが9ヶ月先の今の段階から明確な言葉になったことで、漠然とした不安が、いまから見通せる「具体的な計画」に変わった感覚がありました。
どれだけAIが賢くなっても見えなかった、データ分析の「限界」と「なぜ」
カスタマイズを進めて、自由質問も使いこなすようになった頃、一つの壁にぶつかりました。
走り終わるたびにAIチャットに送る。
回答を読む。明日のメニューを決める。このサイクルが習慣になってきたある日、こんな疑問が生まれました。
「同じ課題が毎回出てくる。なぜ直らないのか。」
「ケイデンスが低め」「上下動がやや大きい」。
毎回同じことを指摘される。アドバイス通りに意識して走る。でも翌週のデータを送ると、また同じ指摘が返ってくる。
AIチャットに「なぜケイデンスが上がらないのか」と質問してみました。
返ってきたのは「ストライドが大きくなっている可能性があります」「接地時間が長い可能性があります」という回答でした。
「可能性がある」という言葉が続きます。断言できないのです。
AIの素人なりに考えてみると、理由は明確でした。
GarminやCOROSが記録するデータの範囲内では、「なぜそうなっているのか」の根本原因まで見えないのです。
AIチャットは与えられたデータを分析するツールです。データに入っていないことは、答えようがない。
「左右バランスが49.2%」という数字は出ます。
でも右足と左足のどちらの接地に問題があるのか。どんな力が左右にかかっているのか。
それはGarminのデータには入っていない情報です。
この「なぜ」に初めて答えてくれたのが、Runmetrixでした。
GCT差(接地時間の左右差)・横方向衝撃差・上下動の左右比較。
これらの指標を見て初めて、「右足で横方向に踏ん張っている」「左足の乗り込みが浅い」という根本原因が言葉になりました。

「毎回同じ課題が出てくる」という謎が、データで解けた瞬間でした。
AIを「自分仕様」に育てた、その先のステップへ
AIの専門家でなくても、触り続けることで使い方は広がっていきます。
プロジェクト指示で自分の情報を設定するだけで、汎用AIチャットは「自分向けの分析ツール」に変わります。
FITファイルの分析だけでなく、自由質問との組み合わせで走らない日の練習判断にも使えるようになりました。
ただし「なぜそのフォームになっているのか」という根本原因には届きません。
同じ課題が毎回出てくるのに直らない。
プロジェクト指示は自分で書くことができます。
ただ「何をどう書けばいいか分からない」「毎月新しいチャットを始めるたびに設定し直すのが面倒」という場合は、すぐ使えるカスタム指示文をNoteで配布しています。
コピペするだけで動く状態にしてあります。セットアップ手順・使い方ガイドもセットです。
▶︎ Note記事:

この記事で使ったアイテム
デバイス・センサー
Garmin Forerunner 265
プロジェクト指示に設定した使用デバイスです。FITファイルの出力元として、AIチャットの分析に必要なデータをすべて記録してくれます。軽量で操作性が高く、ランニング専用機としての完成度が高い一台です。
COROS PACE 4
Garminと並行して使用しているサブウォッチです。同様の手順でFITファイルをエクスポートできます。軽量設計でランニング中の視認性が高く、長距離でも負担になりません。
カシオ モーションセンサー(Runmetrix)
AIチャットでは見えなかった「なぜ」に答えてくれたツールです。GCT差・横方向衝撃差など約30項目のフォームデータをラップ単位で記録します。
AIチャット
Claude
この記事で使用したAIサービスです。プロジェクト指示を設定することで、自分向けの分析ツールとして活用できます。ChatGPTやGeminiなど他のAIチャットでも同様に活用できます。
https://claude.ai/




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